佐々木晴明 税理士事務所

2026年10月1日木曜日

リードを持たせた日と、0歳から始められる新しい制度の話

 

はじめてリードを渡した朝


事務所近くの路地です。古い塀と、丸く刈り込まれた植木と、真ん中にマンホール。車がほとんど通らないので、事務所近くの散歩はこの道を選びます。

この日は、子どもにリードを持たせてみました。

正確に言うと、リードは長く、写真できれていますが後ろで私が持っています。何かあればすぐに引ける状態にしてあります。それでも子ども本人は、自分が犬を連れて歩いているつもりでいます。背筋が伸びて、歩幅が大きくなっているのが後ろから見てわかりました。

うちのイタグレさんは、こういうとき歩調を落とします。急に走り出すこともなく、引っ張ることもなく、子どもの歩く速さに合わせて前を進んでいました。イタリアン・グレーハウンドは走ることに特化した犬種ですが、家の中では驚くほど静かで、小さい子に対しては特に慎重になります。犬の側にも加減があるのだと、こういう場面で気づかされます。

この子が十八歳になる頃のこと

後ろから二人を見ていると、先のことを考えます。

犬の方は、残念ながら人間より早く歳をとります。この二人が並んで歩ける時間は、そう長くはありません。一方で子どもの方は、十数年後には私の背を超えているかもしれません。そして十八歳になれば、進学なり就職なり、まとまったお金が必要になる場面が来ます。

そのお金をどう準備するか。ここから税金の話です。

こどもNISAが2027年1月から始まります

2026年3月31日に成立した税制改正法により、こどもNISAという制度が2027年1月1日から始まることが決まりました。大綱上の正式な名称は「未成年者特定累積投資勘定」といいます。

これまでNISAは十八歳以上でなければ口座を開けませんでした。この年齢制限が撤廃され、0歳から十七歳の子ども名義でも、投資で得た利益に税金がかからない口座を持てるようになります。

主な内容は次のとおりです。

投資できるのは、現在のNISAの「つみたて投資枠」で買える商品に限られます。長期の積立に向いた投資信託です。買い方も、決まった日に決まった額を買う積立方式に限定されます。

金額の上限は、一年あたり60万円、口座全体で600万円までです。月額に直すと5万円が上限になります。

そして十八歳に達した時点で、この口座は自動的に大人のNISAのつみたて投資枠へ移ります。十八歳で終わりになるのではなく、そのまま続けられる仕組みです。

途中で引き出せるのか

ここが最も大事な部分です。

こどもNISAには払出し制限がついています。原則として、利益が出ている部分を非課税のまま引き出すことはできません。

例外は二段階で設けられています。中学校に入る年より前については、災害などで家に被害が出た場合といった限られた事由に限って、非課税での引き出しが認められます。中学校に入る年以降になると、これに加えて、口座の名義人である子ども本人の教育費や生活費にあてるための引き出しも認められます。

ただし、いずれの場合も手続きが必要です。災害などを理由とする場合には、税務署長の確認を受けたうえで、口座のある金融機関に書面を提出することになります。教育費などのための引き出しでも、金融機関に所定の書類を出す必要があります。(これは予定。細かいところは改正になる可能性もあります。)

かつてのジュニアNISAは十八歳まで原則引き出せない制度で、その使いにくさが敬遠される一因でした。今回は中学入学年以降の道が開かれた分だけ柔軟になっていますが、いつでも自由に出せる預金とは性質が違います。教育資金の全額をここに集中させるのは避けたほうが安全だと考えます。

口座を開けるのはいつからか

制度の開始は2027年1月ですが、金融機関によっては2026年中に口座開設の受付を始めるところがあります。手続きには親権者自身の証券口座が必要になる場合があります。取扱商品も金融機関ごとに違います。始めると決めたなら、年内に金融機関を比較しておくと落ち着いて準備できます。

経営者の方に、ひとつ注意点があります

ここからは会社を経営されている方、あるいはある程度まとまった資産をお持ちの方に向けた話です。

こどもNISAは子ども名義の口座です。そこに入れるお金を出すのが親や祖父母である以上、それは贈与にあたります。年間の上限が60万円ですから、暦年贈与の非課税枠である年110万円の範囲には収まります。その点だけ見れば問題はありません。

注意すべきは別のところです。子ども名義の口座であっても、実際の管理を親がすべて握り、子どもが口座の存在すら知らない状態が続いていると、相続の場面で「名義は子どもでも実質は親の財産だ」と見られる可能性があります。いわゆる名義預金の問題です。

こどもNISAは口座の資産が名義人である子どもに帰属することを前提とした制度で、親が自分のために引き出すことも認められていません。その意味では通常の名義預金より立場は明確です。とはいえ、贈与の事実を後から説明できる状態にしておくことに越したことはありません。子どもが理解できる年齢になったら口座の存在を伝えておくこと。この一手間が、十年後二十年後の余計な議論を防ぎます。

もうひとつ、従業員の側から見た視点もあります。子育て世代の社員にとって、この制度は関心の高い話題です。福利厚生として大がかりな仕組みを作らなくても、制度の存在を社内で共有するだけで、会社への評価が変わることがあります。お金をかけずにできる支援のひとつです。

今日のところは

リードを握った子どもの後ろ姿を見ながら、こんなことを考えていました。今はまだ、後ろから私が支えています。いずれ本当に一人で持たせる日が来ます。そのときまでに用意しておくものは、お金だけではないのだろうとも思います。

犬の方は、もう老犬ですが少しでも長生きして頑張ってほしいところです。


制度の使い方や、ご家族への資産の移し方について気になる点がありましたら、お気軽にご相談ください。

※本記事は執筆時点の情報にもとづく一般的な解説です。金融商品には元本割れの可能性があります。具体的なご判断にあたっては、最新の情報をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。