佐々木晴明 税理士事務所

2026年9月15日火曜日

イタグレとガソリン税の話

 


朝の散歩。信号待ちで立ち止まった一瞬に、こちらを見上げてきました。

イタリアン・グレーハウンドを飼っている方ならわかると思いますが、この犬種は片耳だけ立つことがよくあります。左右で違う向きになっている顔が、なんとも言えず好きです。鼻の頭のかさつきや、目の周りの色が薄くなってきたところに、年齢が出てきました。それでも歩き出すと足取りは軽いままです。



車で出かける日のこと

平らな道を毎日歩いていても、たまには広い場所で走らせてやりたくなります。イタグレは短距離を全力で走る犬種なので、リードを外して思い切り走れる場所が必要です。

うちの場合、ドッグランまでは車で10分ほどかかります。夏場は特に、アスファルトが冷えている早朝か、日が落ちてからしか外に出せません。涼しい時間に間に合わせるには、歩いて行ける距離では足りず、どうしても車になります。

そこで気になるのが燃料代です。

51年続いた上乗せが、2025年の大晦日に終わりました

ガソリン価格には長いあいだ、本来の税率に上乗せされた分が含まれていました。1リットルあたり25.1円。「暫定」という名前がついていましたが、導入は1974年です。約51年間、暫定のまま続いてきました。

この上乗せ分が、2025年12月31日をもって廃止されました。2025年11月28日に廃止のための法律が国会で可決され、正式に決まったものです。

軽油についても同じように上乗せ分がありました。こちらは1リットルあたり17.1円で、2026年4月1日に廃止されています。

なぜガソリンと軽油で時期がずれたのか

三か月以上ずれた理由は、税金の種類が違うからです。

ガソリンにかかる揮発油税は国の税金です。これに対して軽油引取税は都道府県の税金にあたります。地方自治体は四月から翌年三月までを一年として予算を組んでいるため、年度の途中で税収が変わると予算の組み直しが必要になります。自治体側の事務やシステムへの影響に配慮して、年度の変わり目である四月一日に合わせた、という整理です。

税金の話が「国のものか、地方のものか」で扱いが変わる典型的な例です。

「廃止されたのに、そんなに安くなっていない」と感じる理由

ここが多くの方の実感と食い違うところです。

上乗せ分が消えたのだから、大晦日を境に一気に25.1円下がるはずだ。そう思って年明けに給油した方は、拍子抜けしたかもしれません。

理由は補助金にあります。廃止の日に価格が急変動しないよう、政府は事前に補助金を段階的に増やしていました。2025年11月13日から1リットルあたり15円、11月27日から20円、12月11日から25.1円という具合です。つまり大晦日を迎える前に、補助金によってすでに25.1円分の値下がりが実現していた状態でした。

そして補助金は2025年12月30日で終了し、その翌日に税の上乗せ分が消えました。値下げの原因が補助金から減税に切り替わっただけで、店頭価格そのものは連続していたことになります。

もうひとつの理由は、店頭価格が税金だけで決まるわけではないという点です。原油の価格と為替相場の影響を受けます。2026年に入ってからは中東情勢の影響で原油価格が上がり、減税による値下げ分が打ち消される場面もありました。

制度は確かに変わりました。ただし家計への効果は、他の要因と混ざって見えにくくなっている。これが実態です。

会社を経営されている方へ

ここからは経営者の方向けの話になります。散歩の話から急に飛びますが、同じ燃料の話です。

まず軽油を多く使う事業への影響です。トラック運送、建設、農業など、軽油が原価に直結する業種では、1リットルあたり17.1円の負担減は決して小さくありません。年間の使用量を掛け算してみると、利益へのインパクトがはっきり見えるはずです。自社で軽油を使っていなくても、配送を外注している会社であれば、取引先の原価構造が変わったことを意味します。運賃交渉の材料として把握しておく価値があります。

次に決算期とのずれです。軽油の廃止は2026年4月1日からなので、たとえば三月決算の会社であれば新しい事業年度の最初から効果が出ます。一方で十二月決算の会社であれば、同じ事業年度の中に「廃止前の三か月」と「廃止後の九か月」が混在します。前年と単純に比較すると燃料費が減って見えますが、それは経営努力による削減ではありません。月次の数字を見るときは、この点を分けて考えないと判断を誤ります。

三つ目は価格転嫁の説明責任です。燃料高を理由に価格を上げていた会社は、減税後も同じ説明を続けると、取引先から疑問を持たれる可能性があります。原油価格の上昇で相殺されているなら、そのことを数字で示せるようにしておくのが安全です。

税金は生活の足元にあります

新しく整備された道を毎朝歩いていると、この道路がどこから出てきたお金で作られたのかを考えることがあります。ガソリン税はもともと道路を作るための財源として始まった税金です。その上乗せ分が51年を経て消えました。

足元の道と、給油所の値札と、会社の決算書。離れているようで、同じ話につながっています。

犬の散歩は犬にあわせてゆっくり道を歩くだけの単調な時間ですが、こういうことを考える時間としては悪くありません。


税金や決算のことで気になる点がありましたら、お気軽にご相談ください。犬の話でも構いません。

※本記事の内容は執筆時点の情報にもとづいています。補助金の実施状況や燃料価格は変動しますので、実際の判断にあたっては最新の情報をご確認ください。